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触覚センサ

Last-modified: 2012-08-09 (木) 15:00:00

触覚センシング

本研究室では外界からの刺激として触覚に注目し,柔軟で薄型の触覚センサの実現とそれを応用したアプリケーションの開発に向けて研究に取り組んできました.
その成果として,2次元荷重分布の中心位置を検出可能なCoP触覚センサと,荷重分布の計測が可能な高密度型触覚センサの2種類の触覚センサの開発に成功しました.

網目状触覚センサ

従来の触覚センサの解決すべき点として,自由曲面への装着,多数の配線処理といったことが挙げられます. 網目(ネット)状触覚センサはあらゆる自由曲面にネットを被せるように触覚センサを配置することが可能であり, 配線はセンサ素子数によらず4本で済み,かつソフトウェアによる処理を必要としない高速な応答速度を持っています. そして2次元表面に加わる荷重分布の中心位置とその総荷重を検出することができます. 図にはその構造を示します. 2層の抵抗ネットワークのノード間を,力などの物理量によって抵抗値が変化する素子で接続しています. センサ構造は完全なアナログ回路であり,このため素子数を増やしても動作速度は変わらず, ほぼ単一素子の動作速度と同じ程度での高速応答が可能です.

網目状触覚センサ

写真は,3X3のアレイセンサで半球を被覆した状態を示します. 検出素子は,荷重によって抵抗値が変化する感圧導電性ゴム(イナバゴム社製品)を用いています.

半球に実装した試作品

次のビデオでは,センサを装着した半球を発砲スチロール製のカバーで覆い,荷重を加えた時の動作を示します. 指先の接触位置とその荷重が表示されています.ちょうど球面に取付けたタッチパッドのような機能を実現しています. また荷重分布の中心位置が出力されるため,2点で押した場合はその荷重中心位置となります。 そして,センサからの配線は4本しかありません. このように網目(ネット)状の構造なので,球形以外にも各種形状に実装することが可能です.

ロボットアームへの装着実験

検出素子と抵抗を一体化した単位エレメントを作成し,これを任意個接続することで任意形状の触覚センサを作れます。 図左は単位エレメント(10mm角)を示します。図右はその接続の様子です。

単位エレメント

また次の図左はロボットアーム先端に実装したセンサを示し,図右はこれをシリコンカバーで被覆した状態を示します。 被覆はセンサの保護もありますが,エレメント間に荷重がある場合の補間効果もあります。

ロボットアームへの被覆

次のビデオは,アームに取り付けたセンサに手で荷重を加えると,その接触位置と荷重をセンサが検出し, 力を加えた方向にロボットアームが移動する様子を示します。

床面に配置して歩行計測

網目(ネット)状触覚センサは任意の大きさに作ることが可能です。 その例として,広い床面にセンサ作り,人間の歩行動作を計測可能としました。 エレメントは80mm間隔に25×5のアレイ状に配置しています。 そしてその上のカーペットのようなカバーを掛け,人間が歩行できるようにしました。 図左にはセンサ部を,図右には歩行時の測定データを示します。

歩行計測

センサからは荷重分布の中心値が出力されます。そのため片足支持期では踵の接地,足裏側面,足親指へとセンサ位置出力が移動しているのが観察できます。また両足支持期では両足の荷重中心位置にセンサ出力があることがわかります。 これらデータから,歩行計測データからステップ長,スライド長,歩隔,および歩速,歩調等の計測が可能です。

分布荷重検出型の網目状触覚センサ

網目状触覚センサは荷重分布の中心位置と荷重総和を出力します。 そこで荷重が1点の場合センサは,その荷重位置と荷重値を出力することになります。 荷重分布の計測はこの特性を用いて実現しました。 まずまず右上に示す様に,制御入力によってON/OFF 可能なSW(スイッチング素子)回路を検出 エレメントに付加します。 次に,常に一箇所のみの検出エレメントをアクティブとする走査方式を導入します。 するとセンサは,図に示す様に荷重位置と荷重値f(i, j) を順次出力するため, 全ての走査が終了後には荷重分布が計測できることになります。

計測原理

今回この原理を図に示すように遅延回路をカスケードに接続し, 順次遅延させながら次段に送って行く方法で実現しました。 この方法では隣合うエレメント間を繋ぐ配線のみで構成でき, 省配線性を失わずに走査を実現できます。

計測原理

また,無負荷のエレメントは遅延をかけずにスルーさせることで荷重のあるところのみの走査も可能としています。 詳細は論文を参照してください。

西野高明,下条誠,石川正俊,選択走査方式を用いた省配線・分布型触覚センサ計測自動制御学会論文集,Vol.45, No.8,pp.391-397,2009.(ファナック財団 論文賞) (計測自動制御学会論文賞)

荷重分布中心位置検出触覚センサ(CoP*1センサ)

本研究室では,薄型・柔軟・軽量・省配線・大面積化可能を実現した 2次元荷重分布中心位置検出触覚センサ(CoPセンサ)を開発しました. 図にはその構造を示します。 センサは,感圧導電性ゴムと,それを挟む面状抵抗体から構成されます。 感圧導電性ゴムは荷重を加えると電気抵抗値が低下する素材です。 面状抵抗体はフィルムに炭素被膜を均一に塗布した2次元的抵抗膜です。 面状抵抗体に図のように電極(黒)を印刷し,上面を抵抗R0を通してプラス電圧に, 下面を同じく抵抗R0を通してマイナス電圧に接続した構造です。 センサからは,2次元荷重分布の中心位置と荷重の総和が出力されます。 詳細は次の論文を参照ください。

石川正俊,下条誠:感圧導電性ゴムを用いた2次元分布荷重の中心位置の測定方法, 計測自動制御学会論文集, Vol.18, No.7, pp.730-735 (1982) (計測自動制御学会論文賞受賞)

CoPセンサ原理図

本センサは全てアナログ構造であるため, 1ms以内という高速な応答速度でセンサに加えられる荷重分布の中心位置とその総荷重を計測することが可能です. センサの計測原理を生かして,センサ処理回路は単純で小規模な回路で実現しています.
現在,本センサの特性改善とともに,センサを応用した様々なアプリケーションの開発を行っています. なお,既に述べた網目(ネット)状触覚センサは本センサを離散構造として実現したものです。

図にはCoPセンサを取付けた3本指ハンドを示します.省配線型のため多指ハンドに取り付けても配線が邪魔になりません. また断線等の故障も少なくなります.本センサは対象物の接触位置とその荷重を高速(1ms以下)で検出できるため高速な ハンドリングが可能です.

CoPセンサを取付けたハンド

ビデオでは東京大学の石川研のハンドに取り付けて高速ペン回しを行っている動画を示します. 時々刻々の接触位置と力が検出できることからこのような高速ハンドリングが可能となります.

そしてだいぶ以前(1986年頃)になりますがStanfordJPLハンドに装着して動作実験をしたことがあります。 ビデオには,木片をハンドリングしている動作を示します. センサは3本指のうち1本にのみ実装しています。白い指先部分がセンサです。 センサを取付けて,シリコンゴムで被覆してあります. 奥にあるオシロスコープがセンサ出力を示します。 木片と指先の接触位置の時間変化が観測できます。 指先への接触状態の軌跡を示します. オシロスコープ画面横軸が指円周方向,縦軸が指長手方向の接触位置を示します.

次のビデオは,センサの高速性と高感度を示すものです. 両手でパスタ保持し,動作している指と衝突させた実験です. 初めは衝突検出をしても指動作をSTOPさせなかった場合です. 次の場面では,指に実装した触覚センサにより,衝突を検知して指を緊急停止させた場合です. パスタは非常に僅かな力で折れる,脆いものですがこのように壊さず停止することが出来ます. センサの高速性,高感度なこと,そしてロボットハンドの高速応答性が見て取れます.

また本センサはセンサ出力に信号処理を加えることですべり情報を高速に検出することが可能となります. 詳しい説明および動作ビデオはすべり覚センサの項で説明します.

分布型触覚センサ

このセンサは接触圧分布を計測するセンサです.4本指ハンドの指先に装着して把持状態の検出を行っています. センサ検出部は,図に示すように感圧ゴムに金メッキ線を網目状に縫い込んだ構造をしています. ちょうど縦横線の交点が感圧部となります. このような構造とすることで薄型柔軟でありながら,接線方向力にも頑健なセンサ構造となります.

センサ感圧部の構造

図にはこのセンサを指に取付けた状態を示します.金メッキ線を縫い込んだ感圧ゴムを人工革に糸で縫いつけてあります. この人工革を指先にすっぽりとはめ込んで取り付けました.

センサを取付けた指

通常このようなマトリクス構造のセンサでは,電流の回り込みが発生し正確な計測ができません. このため,本システムでは図に示すような 回り込み電流を遮断するアナログ回路(ゼロ電位法)を用いてその影響を排除したのち,AD変換後PCに取り込みます.

ゼロ電位法を用いた走査回路

図には実際にハンドによって対象物を把持したときのセンサ出力を示します.

把持状態出力

次のビデオはこのセンサを用いてセンサグローブを試作したものです.ゴルフ用手袋にセンサを縫いつけ把持圧力分布を計測したものです.着け心地は厚めの軍手をはめているようです. 把持動作では,杖を握ったときの把持圧力分布と,電動ドリルを握り作業を行っている状態での把持圧力分布を示します.

触覚情報処理用LSI

触覚情報処理用LSI

分布型触覚センサでは配線数が多くなるという問題点があります.これはロボットへの実装において大きな障害となります.そこで,本研究室では,センサの近くに処理回路を配置し,省配線化を実現するための触覚情報処理用LSIの開発を行っています.このようなLSIは内部にアナログ回路とディジタル回路を持つためミックスドシグナルLSIと呼ばれています.これまで,センサ処理回路を構成する回路要素のLSI化を行い,その動作を確認しています.また,昨年度にはセンサ処理回路をLSI化し,PC経由で8×8マトリクス分布型触覚センサからの触覚情報取得に成功しています.

自由曲面触覚センサ

自由曲面触覚センサ

私達の研究の最大の目的は,人間の皮膚のようにロボットの全身に皮膚感覚を与えることができる触覚センサを開発することです.しかし,ロボットの表面は複雑な曲面の組合せでできているので,そのような触覚センサはあらゆる曲面に形成できなければなりません.
そこで有力な候補となるのがディッピングによる感圧膜形成という方法です.上のイメージ図のように,電極を分布させたロボットハンドを液状の感圧導電性ゴムに浸して,取り出した後ゴムを硬化させて感圧膜を形成します.この方法ならばどんな複雑な形状にも対応することができます.本研究室では上の写真のように球面に実際に触覚センサを形成し,センサが機能することを確認しました.


*1 Center of Pressure